歯の磨き方って結局どれが正解?
バス法・スクラビング法を論文で
「この磨き方が一番」と言えるだけのエビデンスは、今のところありません。2020年のシステマティックレビューは「ある1つの方法が他より優れているとする十分な根拠はまだない」と結論し、2024年のネットワークメタ解析も「歯みがき法の効果に関するエビデンスは限られている」としています。方法選びに悩むより、磨き残しを実際に確認しながら"全部の面に当てる"ほうが実りがあります。
そもそも歯科界に「共通見解」がない
2020年のシステマティックレビューは、冒頭でこう述べています。「現在のところ、手用歯ブラシの磨き方の推奨について、歯科医師・オーラルヘルスセラピスト・歯科メーカーの間で共通見解は存在しない」。専門家の間でも割れている、というのが出発点です。
このレビューは3190件の文献から40件を関連ありと判定し、最終的に13件を分析対象にしました(ランダム化比較試験5件、非ランダム化試験7件、in vitro試験1件)。
「一番いい」に選ばれた方法がバラバラだった
おもしろいのはここからです。13件の研究のうち、統計的に有意に優れたプラーク除去を示した方法は、次のように見事に散らばりました。
つまり「勝った方法」が研究ごとに全部違うのです。さらに4件では有意差そのものが出ませんでした。レビューの著者らは「研究間のばらつきが大きく、理想的な磨き方について決定的な結論を出すことは不可能だった」と述べ、「1つの方法が他より優れているとする十分な根拠はまだない」と結論しています。
2020年のレビューでは、13件のうちランダム化比較試験はわずか5件でした。著者らは「選ばれた研究のデザインや方法論の多くの面で過度なばらつきがあり、理想的な磨き方について結論を出す妨げになっている」とし、「CONSORTガイドラインに沿った質の高いランダム化比較試験が必要」と指摘しています。
「エビデンスがない」のではなく、「判断できるだけの質のエビデンスがまだ揃っていない」という状態です。
2024年の最新解析でも結論は同じだった
2024年、ドイツの研究チームがより新しい手法(ネットワークメタ解析)でこの問題に取り組みました。ランダム化比較試験のみを対象に、13の論文(15の研究)を特定。うち10件が解析に組み込め、フォーンズ法・バス法・スクラビング法が比較されています。
結果は、GRADEに基づくCINeMA法での確信度がプラークについて「非常に低い〜高い」、歯肉炎について「非常に低い〜低い」という評価でした。個々の所見はこう報告されています。
| 方法 | プラークへの効果 | 歯肉炎への効果 |
|---|---|---|
| フォーンズ法 | 指導なしと比べ、おそらくわずかに減らす | ほとんど差がない可能性(確信度は非常に低い) |
| バス法 | ほとんど差がない可能性 | わずかに増やす可能性(確信度は非常に低い) |
| スクラビング法 | ほとんど差がない可能性(確信度は非常に低い) | わずかに増やす可能性(確信度は非常に低い) |
著者らの結論は一文です。「歯みがき法がブラッシング後のプラークや歯肉炎に及ぼす効果については、エビデンスが限られている」。
あの"歯科の王道"であるバス法についても、「プラークにほとんど差がない可能性」という評価にとどまりました。
やり方は決まっていなくても、磨き残しは目で確認できます。染め出し液を1回使ってみてください。多くの人は奥歯の外側、歯と歯ぐきの境目、噛み合わせの溝が残ります。そこに毛先が当たっているかどうか――これは磨き方の名前とは無関係に、誰でも改善できるポイントです。
それと、どの方法であってもゴシゴシ強く磨かないこと。強すぎるブラッシングは歯ぐきや歯を傷めることがあるため、そこは共通して気をつけたい点です。
参考:代表的な磨き方(優劣は未確立です)
| 方法 | やり方のイメージ | よく使われる場面 |
|---|---|---|
| バス法 | 毛先を歯と歯ぐきの境目に45度で当て、小刻みに震わせる | 歯周ケアの指導で定番 |
| スクラビング法 | 毛先を歯面に直角に当て、小刻みに横磨き | 覚えやすく広く普及 |
| フォーンズ法 | 歯を閉じて、大きく円を描くように動かす | 子どもへの指導で使われる |
| ローリング法 | 歯ぐき側から歯の先へ回転させながら払う | 歯ぐきへの刺激が穏やか |
※上の表は用語解説であり、どれが優れているかを示すものではありません。前述のとおり優劣は研究上まだ決着していません。個別の指導が必要な方はかかりつけ歯科でご相談ください。
磨き方の優劣が決着していないということは、逆に言えば「間違った磨き方をしているかも」と不安になる必要がないということでもあります。難しいテクニックを習得するより、毛先が当たっていない場所を1ヶ所減らすほうが現実的。染め出しで一度確認すれば、明日からの2分間の中身が変わります。
- 「どの磨き方が一番か」は決着していません。専門家の間にも共通見解はないと報告
- 2020年レビュー:13件中4件は有意差なし、残りも"勝った方法"がバラバラ。「十分な根拠はまだない」と結論
- 2024年ネットワークメタ解析:確信度は非常に低い〜高いとばらつき、「エビデンスは限られている」と結論
- 研究の質そのものが不十分で、質の高いRCTが必要と指摘されている
- 実用的には方法名より「磨き残しの場所」。染め出しで確認するのが近道
※本記事は公開されている学術論文をもとにした一般的な情報提供であり、特定の治療・製品の効果を保証するものではありません。気になる症状がある場合は歯科医院にご相談ください。
参考文献
- 1. Rajwani AR, Hawes SND, To A, Quaranta A, Rincon Aguilar JC. Effectiveness of Manual Toothbrushing Techniques on Plaque and Gingivitis: A Systematic Review. Oral Health Prev Dent. 2020;18(4):843-854. doi:10.3290/j.ohpd.a45354. PMID: 33028052. PubMed
- 2. Deinzer R, Weik U, Eidenhardt Z, Leufkens D, Sälzer S. Manual toothbrushing techniques for plaque removal and the prevention of gingivitis-A systematic review with network meta-analysis. PLoS One. 2024;19(7):e0306302. doi:10.1371/journal.pone.0306302. PMID: 38968165. PubMed
出典はPubMed収載の書誌情報にもとづき、バンクーバー方式(ICMJE)で記載しています。