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インプラント 2026年7月17日 読了 約7分

インプラント周囲炎は結局どれくらい起きるのか
2014年の常識と最新メタ解析

「インプラント周囲炎はだいたい2割」——講演でも教科書でもよく聞く数字です。その出どころは、2015年に発表された Derks & Tomasi のシステマティックレビュー。ところが2022年のメタ解析では、患者レベルで19.53%、インプラントレベルで12.53%という別の数字が出ています。
これは「昔の数字が間違っていた」という話ではありません。何をもって周囲炎と呼ぶかが違うのです。この記事は、その差の正体を分解します。
先に結論

2つのレビューの数字はどちらも正しく、どちらも「条件付き」です。Derks 2015 は患者レベルで22%(95%CI 14–30%)、Diaz 2022 は患者レベル19.53%(95%CI 12.87–26.19)/インプラントレベル12.53%(95%CI 11.67–13.39)点推定値は近く、信頼区間は大きく重なります。そして両者に共通する最大のメッセージは同じ——「症例定義が変われば有病率は変わる」。数字を引用するときは、必ず定義と単位(患者かインプラントか)をセットにしてください。

かつてはこう言われていた(2015 / Derks & Tomasi)

旧:Derks J, Tomasi C. Peri-implant health and disease. A systematic review of current epidemiology. J Clin Periodontol. 2015;42(Suppl 16):S158-71. PMID: 25495683

この論文は、インプラント周囲疾患の疫学を語るときの事実上の標準引用になりました。被引用は1200回を超えています。抄録に記載された数字は次のとおりです。

ここで見落とされがちなのが、この論文自身が出しているメタ回帰の結果です。抄録によれば、周囲炎の有病率は機能期間と正の相関、そして骨吸収の閾値(threshold of bone loss)と負の相関を示しました。つまり——

「22%」は単独では意味を持たない数字だった

骨吸収の基準を厳しくすれば有病率は下がり、緩くすれば上がる。長く使っているインプラントほど有病率は上がる。これは Derks & Tomasi 自身が2015年時点で報告していた所見です。報告値の幅が 1–47% と47倍も開いているのは、母集団の違いだけでなく、そもそも「周囲炎の線引き」が研究ごとにバラバラだったから。同論文の結論も「症例定義の標準化が必要」でした。
つまり「22%」は当時から、幅の中央値を示すための便宜的な代表値であり、絶対的な真値として提示されたものではありません。

最新のメタ解析ではこうなった(2022 / Diaz ら)

新:Diaz P, Gonzalo E, Gil Villagra LJ, Miegimolle B, Suarez MJ. What is the prevalence of peri-implantitis? A systematic review and meta-analysis. BMC Oral Health. 2022;22(1):449. PMID: 36261829

2005年1月〜2021年12月の文献から57論文(横断18・縦断18・症例対照1・コホート17・RCT 3)を組み入れたメタ解析です。研究数はDerksの5倍以上に増えています。

抄録の結論はこう締められています——有病率は「臨床的な症例定義に限定してもなお、高度にばらつく(remains highly variable)」。7年経っても、問題の本質は解決していないということです。

数字で見る:旧 vs 新のインプラント周囲炎有病率
出典:=Derks & Tomasi 2015(J Clin Periodontol)PMID:25495683、15論文/11研究。=Diaz 2022(BMC Oral Health)PMID:36261829、57論文。いずれも各抄録記載の値。※Derks 2015 は患者レベル・インプラントレベルの区別を抄録上で明示していないため、Diaz 2022 の2つの値と単純に1対1では比較できません。
22%
旧・2015 加重平均
(95%CI 14–30)
19.53%
新・2022 患者レベル
(95%CI 12.87–26.19)
12.53%
新・2022 インプラントレベル
(95%CI 11.67–13.39)
旧2015・加重平均有病率(Derks & Tomasi)
22%
新2022・患者レベル(Diaz ら)
19.53%
新2022・インプラントレベル(Diaz ら)
12.53%
旧2015・報告値の幅(研究間のばらつき)
1〜47%

なぜ数字が変わったのか — 4つの理由

「最近は周囲炎が減った」わけではありません。差を生んでいるのは、主に方法論です。

理由1:症例定義が違う(これが最大)

Diaz 2022 は、組み入れ論文を診断基準ごとに4群に分けて解析しています(本文より)。同じ57論文のデータでも、基準を変えるだけで数字がここまで動きます。

診断基準患者レベル(95%CI)インプラントレベル(95%CI)
群1BOP + PD ≥ 6mm + 支持骨吸収 ≥ 3mm16.4%(0.9–31.89)12.12%(2.96–21.29)
群2BOP + PD ≥ 6mm + 骨吸収 ≥ 2mm
※31論文・最大の群
20.67%(15.89–25.44)12.65%(8.98–16.31)
群3進行性骨吸収(progressive bone loss)14.68%(4.13–25.23)12.04%(4.71–19.37)
群4その他の基準23.94%(1.91–45.98)13.21%(0.45–25.98)
全体19.53%(12.87–26.19)12.53%(11.67–13.39)

数値はいずれも Diaz 2022 本文より(PMID:36261829、オープンアクセス)。BOP=プロービング時の出血、PD=プロービングデプス、骨吸収の閾値はベースラインからの支持骨喪失量。

患者レベルで14.68%〜23.94%——定義を変えるだけで約9ポイント動く。これは「2015年の22%」と「2022年の19.53%」の差(2.5ポイント)よりはるかに大きい。つまり、年代の差より定義の差のほうが支配的だということです。

骨吸収の閾値に注目すると、群1(≥3mm=厳しい)16.4% < 群2(≥2mm=緩い)20.67%。厳しい基準ほど有病率が低い——これは Derks 2015 のメタ回帰が示した「骨吸収閾値と負の相関」と方向が一致しています。7年を隔てた2つのレビューが、同じ現象を別の手法で再現したことになります。

理由2:分母が違う(患者レベル vs インプラントレベル)

Diaz 2022 の 19.53% と 12.53% は、別の病気の数字ではなく、同じデータの数え方の違いです。1人の患者に複数本埋入されていれば、「1本でも周囲炎のある患者」の割合(患者レベル)は「周囲炎のあるインプラント」の割合(インプラントレベル)より必然的に高くなります

Derks 2015 の「22%」は、抄録上ではこの区別が明示されていません。ここを混同したまま「22%→19.53%に下がった」と読むのは誤りです。

Q患者に説明するとき、どちらの数字を使うべきですか?
A
現役歯科医師が回答「あなたが将来これに罹るか」を説明するなら患者レベル(約2割)「この1本がどうなるか」を説明するならインプラントレベル(約1割強)です。患者さんは前者を聞きたがっています。ただし、どちらを使うにせよ「5〜20年の観察で」「基準によって14〜24%の幅がある」という前提を省略しないこと。数字を丸めて伝えるほど、後で「聞いていない」というトラブルになります。

理由3:組み入れた研究の数と質が違う

11研究 → 57論文。母集団が大きくなれば推定は安定しますが、異質性が消えるわけではありません。Diaz 2022 の異質性は患者レベル I²=87.169%、インプラントレベル I²=97.21%と極めて高く、感度分析(外れ値除外)後にようやくI²=44.3% / 46.2%の中等度まで下がりました(本文より)。プールした点推定値だけを見るのは危険だという典型例です。

理由4:プロービングデプスを基準に入れるかどうか

Diaz 2022 は、PDを診断基準に含めた研究とそうでない研究を比較しています(本文より)。

PDを基準に含めるか患者レベルインプラントレベル
含める24.69%15.21%
含めない17.56%11.99%
差は統計学的に有意ではない(患者レベル p=0.27、インプラントレベル p=0.31)

数字としては7ポイント(患者レベル)の開きがありますが、有意差には至っていません。抄録では「PDを診断基準に用いることが有病率データに影響した」と述べられている一方、本文の検定は有意ではない——この温度差は正確に読む必要があります。「PDを入れると有病率が上がる傾向はあるが、統計学的に確定はしていない」が正しい読み方です。

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臨床でどう解釈するか

3つの実務的な帰結

1. 数字は「定義とセット」でしか引用できない。
「周囲炎は約20%」と言い切るのは、厳密には不正確です。「BOP+PD≥6mm+骨吸収≥2mmという基準で、患者レベルで約21%(Diaz 2022 群2)」まで言えて初めて再現性のある主張になります。学会発表・院内資料・患者説明のいずれでも、閾値と単位を書く習慣を。

2. 「2015年より減った」と読んではいけない。
22% → 19.53% の差は、信頼区間(14–30 と 12.87–26.19)が大幅に重なっており、組み入れ研究も定義も異なります。この2点間から時系列トレンドを読み取ることはできません。むしろ「7年かけて、より多くの研究で測り直しても、同じくらいの水準だった」と読むのが妥当です。

3. ベースラインX線が最重要インフラ。
両論文の差の中核は骨吸収の閾値です。閾値で語る以上、「いつからの吸収か」の起点がなければ診断そのものが成立しません。上部構造装着時のデンタルX線を確実に残すことが、その患者を将来どの基準でも評価可能にします。これは論文の数字より、日々の運用の話です。

この記事で「言えない」こと(限界の明示)

ここから先は本記事の2論文からは主張できません

エビデンスの強さ

観点評価
研究デザインいずれもシステマティックレビュー/メタ解析(有病率推定としては最上位)
一貫性低い。Diaz 2022 で I²=87–97%(感度分析後 44–46%)。Derks 2015 でも報告値の幅 1–47%
バイアスリスクあり。Diaz 2022 本文は「大半が横断的または後ろ向き収集の便宜的標本であり、選択バイアスの可能性」と自ら明記
観察期間Diaz 2022 の組み入れは概ね5〜21年。5〜9年群とそれ以上の群で有意差なし(本文より)
総合「約1〜2割」という水準はおおむね信頼できる。ただし小数点以下は意味を持たない。
まとめ

※本記事は公開されている学術論文をもとにした一般的な情報提供であり、特定の治療・製品の効果を保証するものではありません。気になる症状がある場合は歯科医院にご相談ください。

参考文献

  1. 1. Derks J, Tomasi C. Peri-implant health and disease. A systematic review of current epidemiology. J Clin Periodontol. 2015;42 Suppl 16:S158-71. doi:10.1111/jcpe.12334. PMID: 25495683. PubMed
  2. 2. Diaz P, Gonzalo E, Villagra LJG, Miegimolle B, Suarez MJ. What is the prevalence of peri-implantitis? A systematic review and meta-analysis. BMC Oral Health. 2022;22(1):449. doi:10.1186/s12903-022-02493-8. PMID: 36261829. PubMed

出典はPubMed収載の書誌情報にもとづき、バンクーバー方式(ICMJE)で記載しています。