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昔の常識 vs 最新エビデンス 2026年7月17日 読了 約7分

オーラルフレイルは、
いま何がわかっているのか

「オーラルフレイルがあると死亡リスクが2.2倍」——この数字は独り歩きしがちです。しかし出典を開くと、その2.2倍は「6項目中3項目以上が該当」という、ひとつの研究が定めた操作的定義に紐づいた数字でした。2021年のシステマティックレビューが明らかにしたのは、その定義が国際的には固まっていないということ。歯科医師向けに、旧新2本を読み比べて整理します。
先に結論

2018年のTanakaら(日本・柏スタディ)は、オーラルフレイルを「6項目のうち3項目以上に不良が併存する状態」と定義し、身体的フレイル2.4倍・サルコペニア2.2倍・要介護2.3倍・死亡2.2倍のリスク上昇と関連したと報告しました。2021年のLancet Healthy Longevityのシステマティックレビュー(39研究)は、この結論を覆したのではありません。むしろ39研究に12種類もの口腔指標が混在していることを示し、自らの成果を「操作的定義の候補(a possible operational definition)」を組み立てるための材料と位置づけました。つまり2021年時点で、オーラルフレイルの操作的定義は確立していない——これが最大の「更新」です。

1|かつてはこう言われていた

旧:Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, et al. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73(12):1661-1667. PMID: 29161342 デザイン:比較縦断研究(comparative longitudinal study)/日本・柏スタディ

この論文の位置づけを正確に押さえておきます。抄録は冒頭で「口腔の不良状態と全身の健康との縦断的な関連は報告されていない(has not been reported)」と述べています。つまりこれは、オーラルフレイルという概念に数字を与えた側の研究です。日本の地域在住高齢者コホートから出た仕事であり、以後この分野の国際的な参照点になりました。

項目内容(抄録より)
対象65歳以上の地域在住高齢者 2,011人(2012年ベースライン調査)
ベースライン評価16の口腔状態指標+人口統計学的特性などの共変量
アウトカム①身体的フレイル・サルコペニア=ベースラインおよび2013年・2014年の追跡時に評価
アウトカム②身体的自立(要介護認定時点)・生存(死亡時点)=2012〜2016年で評価
オーラルフレイルの定義6項目のうち3項目以上(≥3)に不良が併存する状態
該当割合ベースラインで16%

ここで重要なのが「16指標を測って、6項目で定義した」という構造です。抄録が将来の身体機能低下を有意に予測したとして名前を挙げているのは、現在歯数・咀嚼能力・構音(オーラルディアドコキネシス系の口腔運動技能)・舌圧・主観的な食べにくさ/飲み込みにくさです。

抄録から確定できないこと

抄録は「6項目」と書きながら、6項目の内訳を1つずつ列挙してはいません。上記の5カテゴリのうち「主観的な食べにくさ」「飲み込みにくさ」を2項目と数えれば6になりますが、これは本文を見ないと確定できません。本記事では抄録に書かれた範囲のみを事実として扱います(本論文はオープンアクセスではなく、本文の確認は行っていません)。

数字で見る:オーラルフレイル該当者のリスク上昇
出典:Tanaka T, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73(12):1661-1667(PMID: 29161342)抄録より。オーラルフレイル=6項目中3項目以上が不良。抄録には95%信頼区間の記載がありません(下記バーは倍率を比較するための図示であり、精度を表すものではありません)。
2,011
65歳以上・地域在住(柏スタディ)
16%
ベースラインでオーラルフレイル該当
≥3/6項目
この研究における操作的定義
身体的フレイルの新規発症
2.4倍
要介護(身体的自立の喪失)
2.3倍
サルコペニアの新規発症
2.2倍
死亡
2.2倍

抄録の結論は「蓄積した口腔の不良状態は、死亡を含む有害健康アウトカムの発症を強く予測した(strongly predicted)」、そして「より早期の段階でのオーラルフレイル予防が、健康長寿に不可欠である」です。ここで使われている動詞がpredict(予測する)であって cause(引き起こす)ではない点は、後の議論のために覚えておいてください。

2|その後どうなったか

新:Dibello V, Zupo R, Sardone R, et al. Oral frailty and its determinants in older age: a systematic review. Lancet Healthy Longev. 2021;2(8):e507-e520. PMID: 36098000 デザイン:システマティックレビュー(メタアナリシスなし)

2021年、Lancet Healthy Longevity誌に出たこのレビューは、6つの電子データベースを対象に、データベース収載開始から2021年3月20日までに発表された、60歳超の高齢者における口腔の健康因子とフレイルの関連を扱った研究を検索しました。適格基準を満たしたのは39論文です。

そして、ここが本題です。この39論文にはフレイルに関連する「口腔の不良状態」の指標が12種類含まれていました。レビューはそれを4カテゴリに整理しています。

カテゴリ(4分類)抄録に記載された割合内訳として言及された指標
口腔健康状態の悪化
(oral health status deterioration)
52%/最も高頻度でフレイルと関連づけられた残存歯数の少なさ 29%
口腔運動技能の低下
(deterioration of oral motor skills)
27%咀嚼機能 9%/オーラルディアドコキネシス 5%/咬合力 7%
咀嚼・嚥下・唾液の障害
(chewing, swallowing, and saliva disorders)
20%咀嚼困難 11%
口腔の疼痛(oral pain)4カテゴリの1つとして挙げられているが、抄録に割合の記載なし

いずれも抄録より。なお、これらの%が何を分母にした割合なのかは、抄録には明示されていません(有病率ではなく、39研究のなかでその指標がフレイルとの関連として取り上げられた頻度を指すと読めますが、本記事では断定しません)。抄録は口腔運動技能の低下と咀嚼・嚥下・唾液の障害について、「頻度は低いが、同様にフレイルと関連すると考えられた」としています。

このレビューに「無い」もの

抄録には統合されたOR・HR・95%CIが一切ありません。メタアナリシスは行われておらず、示されているのは指標の分布です。したがって「2021年のレビューで関連がより強く確認された」といった読み方はできません。このレビューが答えたのは「どれくらい効くか」ではなく、「そもそも何を測ってきたのか」という問いです。

3|何が加わったのか(定義という論点)

2本を並べると、変化の正体が見えます。

旧:Tanaka 2018(PMID 29161342)新:Dibello 2021(PMID 36098000)
デザイン比較縦断研究(単一コホート)システマティックレビュー(39研究・6DB)
対象日本・65歳以上・2,011人60歳超・国際的(研究単位で集約)
追跡2012→2014(機能)/2012→2016(要介護・死亡)—(横断的にエビデンスを俯瞰)
口腔フレイルの扱い6項目中≥3という定義を「与える」12指標が混在している事実を「暴く」
主要数値2.4/2.2/2.3/2.2倍(CI記載なし)52%/29%/27%/20%ほか(効果量なし)
定義への態度研究内で操作的に確定「possible operational definition(あり得る操作的定義)」に向けた材料と自認

Dibelloらは抄録の結び近くで、自らの知見を「それぞれの口腔項目が、この新しいフレイル表現型のあり得る操作的定義にどう寄与するかを評価する助けになりうる(could help to assess the contribution of each oral health item to a possible operational definition)」と表現しています。「a possible」——不定冠詞つきの「あり得る」定義です。この一語が、2021年時点の到達点を正確に示しています。

そして提示された表現型の説明が、「認知機能および身体機能の低下を伴う、加齢に伴う口腔機能の緩やかな喪失(an age-related gradual loss of oral function together with a decline in cognitive and physical functions)」認知機能(cognitive)が入っている点は、Tanakaの6項目(現在歯数・咀嚼・構音・舌圧・主観的困難)には無かった要素です。

ここが記事の核心

定義が違えば、拾われる人が変わり、有病率が変わり、関連の強さも変わります。「オーラルフレイル16%」も「死亡2.2倍」も、Tanakaの6項目中≥3という定義に紐づいた数字であって、別の定義を使えば別の数字になります。39研究に12指標が混在していたということは、各研究の数字を横並びで比較したり、単純にプールしたりすることが原理的に難しいということです。「オーラルフレイルは○倍」と語るときは、必ず「どの定義で」を付けないと意味が定まりません

4|なぜ「変わった」ように見えるのか

結論が覆ったわけではありません。起きたのは視点の移動です。

2018年の時点で必要だったのは「口腔の衰えが全身に効いてくることを示す」ことでした。そのためには操作的定義を決め打ちして、縦断で追い、数字を出す必要があった。Tanakaらはそれをやり、抄録が言うとおり「縦断的な関連は報告されていない」状態を終わらせました。

その仕事が成功したからこそ、世界中で類似研究が走りました。結果、39本・12指標。各研究がそれぞれ違うものを測って、それぞれ「オーラルフレイル」と呼んだ。2021年のレビューが直面したのは、成功の副作用としての異質性です。

つまり「概念が広まる」フェーズから「概念を測定可能な形に締め直す」フェーズへ移った——それがこの4年で起きたことだと読めます。

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5|臨床でどう使うか

定義が固まっていないからといって、臨床が止まるわけではありません。むしろ2本を踏まえると、やることは絞られます。

場面2本から言えること
何を見るかTanakaが将来の身体機能低下を予測したとする指標は現在歯数・咀嚼能力・構音(口腔運動技能)・舌圧・主観的な食べにくさ/飲み込みにくさ。Dibelloで最も高頻度に関連づけられたカテゴリも口腔健康状態の悪化(52%)、とくに残存歯数の少なさ(29%)両者が重なるのは「残存歯数」です。すでに毎日カルテに書いている項目が、そのまま最も再現性の高い指標だという読み方はできます。
単発か、累積かTanakaの定義は「≥3項目の併存」。1項目の異常ではなく累積を見る設計です。舌圧だけ、咀嚼だけを単独で追うより、複数項目を並べて「いくつ引っかかるか」を見るほうが、この研究の枠組みには忠実です。
いつ見るかTanakaの結論は「より早期の段階での予防が不可欠」。該当者はベースラインで16%、すなわち6人に1人。すでにあなたの高齢患者の待合室にいる規模です。
どう説明するか「2.2倍」を使うなら、「2,011人の日本の地域高齢者を2012年から2016年まで追った研究で、6項目中3項目以上に不良があった人では」という条件を付ける。条件を外した「2.2倍」は、この2本が支持していない主張になります。
Q日本歯科医学会などが示すオーラルフレイルの概念とは、どう整合するのですか?
A
現役歯科医師が回答オーラルフレイルという枠組みが日本で提唱され、国内の学会・行政の文書に取り込まれてきた経緯があること自体は、臨床現場の実感としてご存じのとおりだと思います。ただし本記事が確認できたのは今回の2論文の抄録だけであり、国内の学会等が示す定義の内容・改訂状況について、一次情報を確認していません。したがって「学会の定義とTanakaの6項目は同じ/違う」といった対応関係は本記事では断定しません。実務で学会の枠組みを使う場合は、必ず当該学会の一次資料をご自身で参照してください。ここで確実に言えるのは、Dibello 2021が国際的には「操作的定義はまだ candidate 段階」と位置づけていたということだけです。

6|この2本からは「言えないこと」

踏み越えてはいけない線
それでも臨床的な含意は残る

因果が言えず、定義が固まっていない——それでも「口腔の不良所見が累積している高齢者は、その後の身体機能低下・要介護・死亡のリスクが高い群である」という予測因子としての価値は、2本を通じて否定されていません。治療標的として過大に語らず、リスク層別化の手がかりとして正確に使う——それが現時点で最も誠実な運用だと考えます。

まとめ

※本記事は公開されている学術論文をもとにした一般的な情報提供であり、特定の治療・製品の効果を保証するものではありません。気になる症状がある場合は歯科医院にご相談ください。

参考文献

  1. 1. Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, Kikutani T, Watanabe Y, Ohara Y, et al. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73(12):1661-1667. doi:10.1093/gerona/glx225. PMID: 29161342. PubMed
  2. 2. Dibello V, Zupo R, Sardone R, Lozupone M, Castellana F, Dibello A, et al. Oral frailty and its determinants in older age: a systematic review. Lancet Healthy Longev. 2021;2(8):e507-e520. doi:10.1016/S2666-7568(21)00143-4. PMID: 36098000. PubMed

出典はPubMed収載の書誌情報にもとづき、バンクーバー方式(ICMJE)で記載しています。